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2008/11/05

Horses on the Tracks #4

先日の天皇賞、二頭の名牝が、我が国の競馬史上稀に見る美しいレースを見せてくれました。

振り返れば、不思議なレースでした。勝者はいるのに、敗者がいないのです。最後の最後までレースを支配したスカーレット。世代を超えて果敢に挑戦したディープスカイ。そしてそのディープスカイを力でねじ伏せて、さらに残された最後の力を振り絞って勝利を手にしたウオッカ。その他ほとんど全ての馬たちも力の限りを尽くしたレース。精神が肉体を超えた姿が府中のターフに繰り広げられました。そこには敗者の姿は見当たりません。

レース後のコメントでも、ほとんどのジョッキーがパートナーをねぎらい、後悔の念を持つものは僅かな例外を除いては見当たりません。そして勝利を収めたウオッカの鞍上・武豊ジョッキーの、まるでメジャーリーガーが力と力のぶつかり合いの結果、ホームランを打った時に相手投手を尊敬し、派手なガッツポーズを見せつけたりしないのと同様に、素晴らしい闘いを共に繰り広げた相手を讃えるかのように静に喜びを押し殺していた姿が印象的でした。「尊厳」の「尊」と「厳」このふたつの文字が持つ本当の意味を教えてもらった…そんなレースでした。

ケンタッキーダービーの事を、アメリカ人は「世界で最も偉大な2分間」とプライドを持って称しますが、僕たちも誇りを持って、2008年、第138回天皇賞を「世界で最も偉大な117秒」と讃えることができることが晴れがましく、嬉しいです。

Quinaは素晴らしいレースに出会えると、その感動から頭の中に「音楽」が流れてくることがあります。そして今回、久しぶりにとっておきの1曲が、感動とともに流れてきたのでした。

Horses on the Tracks 4  

"Ain't No Mountain High Enough" Diana Ross

ダイアナ・ロス、1970年のソロ転向第1作の「Diana Ross」に収録され、全米ナンバーワンに輝いた名曲です。オリジナルは同じくモータウン・レーベルのマーヴィン・ゲイとタミー・テレルのデュエット曲(1967)。当たり前ですがこちらのオリジナル・ヴァージョンもノリの良い、軽快なモータウン・サウンドが愉しく、体が自然に動いてしまうような最高に素晴らしい曲です。アメリカ人はこちらのオリジナルがとても好きなようで、デンゼル・ワシントンの「タイタンズを忘れない」では挿入歌で使われ、ウーピー・ゴールドバーグの「天使にラブ・ソングを2」では同じアレンジでエンドクレジットのなかでウーピー達が歌っています。「どんなに高い山も、どんなに深い谷も、どんなに広い河も、ふたりを離れ離れにすることはできない…」という有名なサビのパートが友情や心の絆をテーマにした映画にはぴったりなのでしょう。

そのオリジナル・ヴァージョンを歌ったタミー・テレルはこの曲のヒット中に病に倒れ、3年後の1970年に僅か24歳という若さでこの世を去ります。そして大切なパートナーを失ったマービンもショックのあまりしばらくの間音楽活動を停止してしまいます。そんな中、この曲の作曲者だったモータウンの専属ソングライターだったアシュフォード&シンプソンは当時スプリームスから独立したダイアナ・ロスのファースト・ソロ・アルバムのプロデュースを担当していました。そしてタミーへの追悼曲としてこの"Ain't No Mountain High Enough"を選び、ダイアナに歌わせたのでした。しかし、ただのカヴァーとしてではなかったのです。

アシュフォード&シンプソンは、かつて軽快なノリの良いラブソングだったこの曲に大胆なアレンジを施し、原曲とは全く違った曲に生まれ変わらせました。光り輝いていたタミー・テレルがどこまでも高い所に昇っていける…そんな高揚感が溢れ、壮大な広がりを持った曲として新たな生命を与えたのです。タミーへの追悼の念と、ダイアナの新しい門出を祝う、その二つのテーマを完璧にこなしたアシュフォード&シンプソンの傑作が誕生したのでした。そしてダイアナは、類まれな歌唱力、表現力によって見事にこれに応え、この新ヴァージョンはダイアナ以外の者が歌うことが許されないと絶賛される名唱となったのでした。

そんなダイアナ・ロスの素晴らしい歌が、天皇賞の素晴らしいレースを観た後に、僕の心の奥から響いてきたのでした。

♪乗り越えられない山はない
♪果てしなく深い谷はない
♪渡れない河はない
♪あなたが私を想い続けることは止められないはず

時には重なり、時には別の道を歩んだふたりの名牝が、最高の舞台で共に奏でた最高のコール&レスポンス。その姿に"Ain't No Mountain High Enough"を心を込めて歌うダイアナの凛とした輝きが重なってくるのです。

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Diana Ross」(1970)音源はこちら

MARVIN GAYE & TAMMI TERRELL "Ain't no Mountain High Enough"

「天使にラブ・ソングを2"Ain't No Mountain High Enough"

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コメント

素晴らしいエントリですね♪

いやー、最近ラジオで偶然ではありますが
数回聞いていたのですが・・・
「あー、やっぱりいい曲だなー。」と
思っていたところで、このウンチク!!

本日、CD買いに行きます(爆)

投稿: enokeiz | 2008/11/05 13:09

enokeizさん

Horses on~久しぶりに新作エントリーを書けました。
「うた」を聴かせてくれたサラブレッドたちに感謝の気持ちで一杯です。

普段はロクでもないことばかり書いておりますが、
たまにこんな風に綴っていきますので、
覗いてやって下さい!(昔の馬と曲が多くなりますが…)

投稿: Quina | 2008/11/05 22:17

シュープリームスよりマーサ&バンデラスが好きなナルトーンです^^;

素晴らしいレースでしたね。思いは自分のブログに書いたので省略して^^;

感動を意識せずに歌として表現できるのは脳に色々と蓄積された思いがあって
スイッチが入るからでしょうか?

大きな感動を言葉で言い表すのは非常に難しく、人に伝えるのがもどかしい時があります。

こうして表現できると本当に素晴らしいと思います。

これからも、こんなレースがあるといいですね。
・・・でも毎週あると神経がマヒするかな(笑)

投稿: ナルトーン | 2008/11/05 22:51

ナルトーンさん

おっ!マーサ&バンデラスですか!良いですねぇ~

>感動を意識せずに歌として表現できるのは脳に色々と蓄積された思いがあってスイッチが入るからでしょうか?

うーん…どうなのでしょう?
確かに「スイッチ」が入るという感覚で、音や歌が胸の奥底から自然に沸きあがってくるといったイメージなのですが…

競馬と音楽を取ったら、ほとんど何も残らない人間なので(笑)。答えになっていませんね…

こうしてブログを書く前は、競馬の素晴らしさを「音」で感じて、ひとり悦に入っている…「音盤騎手」(ディスクジョッキー)を気取っていただけだったのですが…

あれれ、「競馬安楽椅子探偵」じゃなかったの?と自分で突っ込んだりして(爆)


投稿: Quina | 2008/11/06 09:20

素晴らしいレースにふさわしい素晴らしいエントリーですね。
読ませて頂いてふたたび感動が甦ってきました。

マーヴィンゲイが大好きなのでそちらの
バージョンは良く知っていたのですが
ダイアナロスのカヴァーは初めて聴かせて頂きました。
素敵な曲に出会えてよかったです。

レースが終わった瞬間、勝った、負けたよりも
「凄かった」という感動が湧き上がってくる・・
京都競馬場でも一瞬観客の声がフッと消えた感じ
だったのですが、誰もがみなレースに圧倒されて
声が出せなかったのかもしれません。

>世界で最も偉大な117秒
まさにその通りですね。
そういう時間を味わえたことに感謝したいです。

投稿: けん♂ | 2008/11/07 09:59

けん♂さん、こんにちは
コメントありがとうございます
訳あって、初代のターフィー着ぐるみには入ったことがあるQuinaです(笑)。

治郎丸さんの「ガラスの競馬場」でのコメントや、貴ブログ「けいけん豊富な毎日」、いつも楽しく拝見させていただいております。

>京都競馬場でも一瞬観客の声がフッと消えた感じだったのですが
古い話で恐縮ですが、1971年Led Zepplinの初来日公演での「天国への階段」や1976年Neil Young初来日公演での「Like A Hurricane」のように、レコードリリース前の名曲を披露された時、初めて聴かされる曲のその圧倒的なパフォーマンスに声を失い、武道館中がシーンと静まり返った事を思い出しました。

歴史の証人になれたことを、サラブレッドたちに感謝いたします。

今後ともよろしくお願いいたします。治郎丸さんの関西のライブ、実現したら是非参加したいです。


投稿: Quina | 2008/11/07 11:55

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